今更、チャンピオンズリーグ決勝2020 分析

コロナ禍後、サッカーのシーズンはほぼ毎日サッカーの試合があり
分析を作るよりも、まずサッカーの試合をみるだけで精一杯という
とても珍しいシーズンを楽しみました。
ドイツ、ブンデスリーガDFBポカール、そしてUEFAチャンピオンズリーグを制した
バイエルン・ミュンヘン。7年ぶりの三冠、とても強かったですね。
ブンデスリーガ全体を考える記事は、次回にすることにして
まずはチャンピオンズリーグの分析。

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PSGFCB

この試合を大きく分けたのは1つのゴールであり
実はxGの値は1.1対1.1の互角。
マヌエル・ノイアーの2度のスーパーセーブ、ディ・マリアのシュートが決められなかったこと、が決め手と思います。
パリ・サンジェルマン育成出身のキングスレー・コマンを起用して采配が当たるのは
バイエルンのハンジ・フリックが凄い慧眼とも思いますが、
試合で凄かった選手を上げると先述のノイアー、そしてチアゴ・アルカンタラ

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thiago1
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になると思います。
両チームともにプレスの力が相当によく、両チームのパス数が多くなく互いにパス成功率も80後半の値を出させない、という試合の中で
中央で上手さが目立つ選手であり、試合を舵取りできる存在がチアゴでした。
彼がアンカーミッドフィールダーとして機能しているわけです。
スタッツに載らない記録として、まず守備のカバーリングが上手い。
ドリブルやトラップの基本技術が高く相手選手にボールを奪われる数が少ない上、長短のパスが上手い。
そしてプレーするエリアが広い。
パトリック・ヴィエラアンドレア・ピルロクロード・マケレレハビエル・マスチェラーノといった2000年代を代表する選手達をハイブリッドしたような選手。
思えば、15年前にチャンピオンズリーグマガジン(UEFAの公式マガジン、日本語版もあった)で、「次世代のアンカー」という記事をジョナサン・ウィルソンが書いていましたが、その頃はピルロが期待されていました。そして15年後はピルロ以上という感じ。
加えて、マイケル・コックスが彼のブログ「Zonal Marking」で提唱し、ウィルソンも使っており世界中で通用する言葉になったディープライイングプレーメーカーとしても、彼は素晴らしかった。(Anchor Midfielderの語彙が昔のイングランドでの使われ方とは若干変化しているのでね)


先の試合を分けた点に話を戻しますが、バイエルンが失点を食らうなら、高いバックラインの裏、特にライトバックの裏が狙い目でした。準々決勝のバルセロナ戦の1点目もダビド・アラバオウンゴールになったのはジョルディ・アルバの突破。ブンデスリーガバイヤー・レバークーゼン戦の失点も裏をあっさり突かれて先制され、ビハインドになりましたし、ボルシア・メンヒェングラートバッハのようなサイドに速いチームに(レヴァンドフスキミュラーの出場停止もあるけど)苦戦したのも納得できるところなのです。
そんなバイエルンに対峙する、速い、そして上手いアタッカー、ネイマール、そしてキリアン・エンバッペがいるPSGでした。ネイマールの17分のシュート、狙い方としては秀逸でした。奪って前へ、ダイレクトに速い、抜け出したネイマールが1対1。ただ、股下を狙ったシュートを決めさせないノイアーの実力というところでしょう。
ただ、試合全体を支配していたのは、バイエルンという実感です。相手の上手いところを出させる前にプレッシングする、
結果がパリのパス数とパス成功率に如実に出ていますし、パリの人選の泣き所でした。

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pass

マルコ・ヴェラッティが怪我していたために全開というわけではない状態。対するティアゴのような役割を担えるとしたらヴェラッティくらいしかいないわけです。
中盤で相手より上手く、保持できない上に、前への推進力となる中盤に選手がいない、難しいし苦しい。相手を支配するに至らないわけです。
他方、コマンの得点について、ウィングの彼がヘディングで決めたゴールは、PSGのシステムの泣き所でした。
ちょうどチアゴ・シウバが釣り出され、プレスネル・キンペンベが移行し、空いたスペースをレヴァンドフスキが狙っているためレフトバックのケーラーは中央側のケアをしなければならない、という条件で大外のウィング、コマンが簡単にクロスを待つことができる状況。
レフトバックの更に外側を守備する状況の場合、誰が守備に入ってくるべきだっただろう?ウィングの選手?
それともミッドフィールダーの誰かがバックラインのケアに入る出来だったの?
マルキーニョスがもっと深い位置まで下がって守備をするべきだった?
という様々な難しさがある場面です。
2010年のUCL準決勝、インテルバルサで、似たような場面を見ています。右ウィングのレオ・メッシがいちいち戻るわけにもいかないし、パンデフエトーミリート、そしてスナイデルに見事にやられた失点ですね。サッカーは進化をしているのか、歴史を繰り返すのか、とても考えさせられます。深い。


試合を決めた点は1点でしたが、実感としてはバイエルンの完勝。やはりヒートマップはウソはつかないですよ。試合を支配していたのはバイエルン・ミュンヘン