チェルシーFCの優勝。

やっぱり色々と考えさせられるお話ですね。

こんな本が出ていたけれど、この本の中ではチェルシーの監督はフランク・ランパードだし、プレミアリーグ関係の監督やコーチと言えば、気になる人物と言えばトーマス・フランクだし、アシスタントとしてはポール・ネヴィンが入っていなかったのは、選者のセンスがとても悪いことが理解できるし、細かいファクトチェックをすると間違いであることが明らかな点を見逃して刊行したと思うと、残念な本ですね。


さて、前回はマンチェスター・シティーの目線でUEFAチャンピオンズリーグの決勝を見たので、今回はチェルシーの目線で決勝を見ていきましょう。
https://encyclopector.hatenadiary.org/entry/2021/05/29/202838

勝戦は先制点が大事になるし、先制点を与えないことも同様に大事になる。(略)
相手(シティー)の守備が簡単に穴になるとも限らず、(得点の)可能性は90分の中で数度あるくらいだろうと思われる。その中で1度でも決めたら決勝点の可能性もあり、誰かが1つ大仕事をしてくれることが、切望されている。

と書いていて、チェルシー側ができることの限られている中でしっかりと試合を行った印象がやっぱりあります。
チャンピオンズリーグの試合では先発出場していたハキム・ジエシュではなく、カイ・ハヴァーツを先発起用しました。監督のトーマス・トゥヘルの言葉を見ると「高さでのアドヴァンテージとティモ・ヴェルナーとの協力関係に期待した」とあります。個人的にはもう一つ理由があると思うので後述。
相手側の先発にも驚きがあって、これは試合後会見のトゥヘルの言葉で「フェルナンジーニョが先発に入ると思っていた。相手の選択はとても攻撃的で技術ある選手を並べた、ボールを奪取し回収することが難しい。それ以外は予想通りだった。」と言われるこの試合、繰り返しになりますのでフェルナンジーニョについては割愛。(シティーの敗因です)


さて、先発はわかったところで、チェルシーが勝つならどういう展開が理想なのだろうか?という点を考えましょう。
点を多くとって相手を上回る試合よりも、1-0もしくは2-1の点差の少ない試合の方が現実的。さらに言えば、1-0で逃げ切る方がより理想的だったのではないでしょうか。
改めてブルーズの人選を見ると、バックラインは3バック。右にはセサール・アスピリクエタが入り、リーグ戦で行ったリース・ジェームズとの配置の入れ替えはせず、ジェームズが右のウィングバック。中央にチアゴ・シルバ、左はアントニオ・リュディガー。左のウィングバックはベン・チルウェル。安定した後ろ5枚を選び、MFはチェルシーの言葉を借りると「ダブルシックスロール」、ジョルジーニョとエンゴロ・カンテ。(シックスというのはドイツのフォーメーション図で守備的MFを「6番」というからです)
そして前線がティモ・ヴェルナー、メイソン・マウントで、そしてハヴァーツ。
まずはヴェルナーを考えましょう。彼の特徴は何よりスピード。他の競技もスピードは教えることはできない、と言われるほど天賦のモノであり、これを上手く使いこなせればサッカーのトップレベルで高い地位を約束されるものです。ただ純粋にアタッカーとして見た場合に彼の今季の問題点は得点の決定力。実際の得点はxGに比して低いことはいわれていますし、ドイツ代表の試合でも北マケドニア相手に彼がゴールを決めていれば、歴史的な敗戦となることはありませんでした。
カイ・ハフェルツ、ドイツのバイヤー・レバークーゼン時代の彼は得点もしっかりと取るアタッカーの印象が残っていますが、彼のプレースタイルで素晴らしいのは8番、9番、10番をこなせる器用な点も備えるところ。仮に早い時間帯に1点が入った場合に試合の展開や時間をコントロールする際に器用な彼が担う役割が色々な面で期待できます。2-0や3-0になったら、尚更。
マウントも若手の有望選手。テクニックも確かな選手で、ウィングとしてそして10番の選手としても機能する。8番としてもいける選手であります。


というわけで試合展開別に行うことを考えると

  1. 守備が耐えて相手の得点を極力抑える。特に大事な点は相手のMFに大きな自由を与えないこと。
  2. 攻撃はスピードで相手に脅威を与える。a.ヴェルナーのスピードで相手の守備を背走させる。b. サイドからの速い侵入から中央で合わせて得点につなげる。
  3. 0-0の展開で試合が続くなら、同じポジションの選手を後半に入れてインパクトプレーヤーとする。
  4. 1点が必要な展開になったなら、オリヴィエ・ジルーを入れる。ヴェルナーとの交代。時間帯によってはDFを1枚削ってジルーとなる。
  5. 1点を守る展開の場合は、同じポジションよりも後ろのポジションの選手を入れる。ただし極度に守りすぎない布陣にする。

上記5点が大まかな考え方。試合開始前のシティーの先発陣容を見て相手がよりテクニカルからこそ同じ土俵で戦うことはよろしくない。むしろ自分たちのストロングポイントをいかした得点を狙うのが良いです。こう考えた場合、シエシュは良い選手ですが、特徴はスピードであり相手を支配する時間帯にどうしても輝きにくくなります。そのために彼がベンチに下げられたと考えてもおかしくないのではと思います。トップレベルの戦いになれば単に一芸に秀でているのみでは難しい。(逆にスピードのインパクトプレーヤーとしては期待していたものと思います。出番はありませんでしたが)
イルカイ・ギュンドアンの起用がスコット・バレットのフランカー起用であり、ジエシュの不在はワイサケ・ナホロが選外になったことを思い出しました。RWC2019のAB'sのことですが、競技は違えど、戦術はまず人選から始まるわけです。


試合を振り返りましょう。
試合は前半早々からヴェルナーの空振りや惜しいシュート。2本のうちのどちらか決まっていたら試合は楽だったでしょう。カンテのヘディングシュートもありました。
得点の期待できる機会としてはシティースターリングの8分の枠内シュートと26分のリュディガーがブロックしたフォーデンのシュートがあり、拮抗しているという状態でしたが、シティーのパス本数が少なくポゼッションも期待ほど高くさせなかった展開になります。フェルナンジーニョ不在もありますが、チェルシーの守備が良かったことも見逃せません。

そしてゴールを見ていきましょう。


理想的です。ヴェルナーのスピードの脅威を与えたうえで相手の守備の一瞬の穴を突く。ハヴァーツ。やはりレバークーゼンで二桁得点していただけのことはあります。
この得点に加えて、後半に途中出場のクリスティアン・プリシッチの非常に惜しいシュートがありました。決まっておかしくない決定的チャンス(skysport的に言うと「明白なチャンス(Clear-Cut Chance)があり、これが決まっていたら2-0。もっと試合は楽になっていたと思いますが。

相手シチズンズの中心選手、ケヴィン・デ・ブライネのアクシデントによる途中交代がありましたが、それでも相手の攻撃の機会を極力抑えたのはチームとしての勝利。
トゥヘル「我々は全員がステップアップして、より勇敢になって、危険なカウンターアタックを創出した。タフでフィジカルな試合。選手が互いに助け合った。」と狙いはカウンターにならざるを得ない点と、やり切る力。それを出せるのが優秀な指揮官というところでしょうか。
監督というと兎角采配や戦略に目を向けられがち(特に日本のサッカー言論)ですが、指揮官の力が発揮されるのは、更に上位構造の次元にあるように思います。



結語として
今回のマンチェスター・シティー対チェルシーチェルシーがうまくやった。これは確かです。ただそれ以上にシティーの采配ミスである印象が強いです。
ペップ・グアルディオラは、異なる2チームでチャンピオンズリーグを制覇した監督になることができませんでした。
オットマール・ヒッツフェルト(初出場の決勝でボルシア・ドルトムントに優勝をもたらした)
ユップ・ハインケスバイエルン・ミュンヘンに史上初の三冠をもたらした)
カルロ・アンチェロッティレアル・マドリード悲願の「デシマ」およびACミランでの2回のビッグイヤー
ジョゼ・モウリーニョインテル・ミラノを三冠させた人)
確かにペップのバルセロナは非常に強いチームでしたが、そろそろチャンピオンズリーグを優勝できないと彼の成果は、実は彼の手腕によるものか否かが懐疑的になってしまう気がしてなりません。何故バイエルンは優勝させられなかった、何故マンチェスター・シティーは大金を使っても勝てない、と。