今回は真面目にマンチェスター・シティーおよびジュゼップ・グアルディオラを考える。

まず、名前。Josep Guardiolaが発音記号は [ʒuˈzɛb ɡwəɾðiˈɔlə]だから、ジョゼップではない。ジョゼップ・グアルディオラと書きたいし、どちらかと言えばグアルディオーラってことになる。うん、これは面倒くさい名前だ。やはり愛称であるペップ・グアルディオラと言うことにしておこう。(以下ペップと略す)
彼のサッカーを非常に丁寧に、うるさいくらいに上手に説明している本はこれ。残念な日本語タイトルなので、そっちは載せないがこの本を読めばおおよそのことを理解できる。

スペイン語とは違い、英語でペップ本人が説明している映像が今年出ていて、これはとてもわかりやすい。

www.youtube.com
この説明を聞く限り、ペップのフットボールFCバルセロナからチームが変わってもスタイルは変わらない。
大事なことを要点にすると

  1. ボールを守ること(自分たちのボールにする)
  2. 敵陣でパスを多くつないでチャンスを創出すること(ゴールを生むのはシュートだから)
  3. ボールを奪われたら前から奪いに行くこと(即ち相手の機先を潰す)、ここでの表現だと3つの弾丸が100%で追うとか表現される

今季、話題になったジョアン・カンセロがレフトバックからミッドフィールダーの位置で プレーを移動することに関しても、「4,5,6,人の選手でパスをつなぎたい、コントロールしたい、ただそれだけ」と発言しているに過ぎない。
このことを上手に説明しているのは、サッカーの戦術の分析として非常に有名なジョナサン・ウィルソン。

彼の説明で使われる単語は「交換」で、即ちカンセロがポジションを移動することで、本来のレフトバックが担うであろう役割を違うプレーヤーと交換するわけである。
右利きのカンセロの昨季からの問題点は左足でのクロスがそれほど優秀でないことであるが、そんな選手がレフトバックの花形である左足からのクロスを必要とされる位置にとらないことは、誰かが左サイドにポジションを埋めることで補完されて、強力な攻撃となる。
「カンセロロール」とか簡単に言われるけれど、この動きが成立する要因はウィンガーのラヒーム・スターリングやフィル・フォーデンあたりが、どのあたりのポジションでパスおよび攻撃のポジションを配置され貢献しているかによるわけである。


ちなみに「偽SB」とかいう単語は、ドイツ語関係で検索はひっかかるが英語では主流の文面では出てこない。ジョナサン・ウィルソンの有名な著作「Inverting the Pyramid: The History of Football Tactics

にちなんで、Inverted Full Backと言われた説明の文章は見たことあるが、これも大手で文章を担当している作者でないので、信用に欠ける。さらに言えば、そもそも「False」という単語は確かに「偽」という感じを当てることも理解できるが、「擬態」「擬える」「擬き」などという日本語にも当てはまり、フルバックの選手が「あたかもMFのようにプレーを行う」という行為を主眼に置けば「偽」ということよりも「MFとしてプレーが成り立っている」という事実、将棋の「成香」のような存在であると理解する方が、相応しい様に思える。

閑話休題
ペップのフットボールは、前述の3項目をパッケージした中身が、所謂「Juego des Positions」であるといえる。(本当なら紹介したいのが J Sportsでやっていたペップのドキュメンタリーなのだが、どうも期限切れで、試聴が不可能になってしまったようだ)
ボールを中心に攻撃と守備が行われ、人およびポジションが、監督の手のひらで遊戯のように動かされる、と言ったことがプレーで体現されている。非常に面白いし興味深いし、よくよく考えると過去の常識とは違うけれど理に適っている、というのが彼のフットボールの面白いところ。
何故このようなフットボールを行うかと言えば、バルサにはレオ・メッシという稀有な存在がいて、ゴールを計算できる。ドリブルで相手を無力化することに関しても世界一といえる。彼が中心にいることでその周辺を如何に上手に作るか。敵陣の高い位置でボールを奪ってメッシに渡せばとても良い状況が生まれる。こんな単純な計算はそうそうない。そうでなくても高い位置でボールを奪うことは、戦術の古典である、「Winning Formula」にだって載っているくらい自明の理である。

加えて書いておきたいのは、ポゼッションに対して「ストーミング」やら「カウンター」だとか対比して書く向きがあったりするが、ポゼッションも守備も全て含めたパッケージが戦術なのである。両輪であることが大切なのであり「強いチームはポゼッションだけでなく、カウンター強い」(大事なことは「も」ということ)がとても重要な指摘である。Champions League Magazineで過去にアレックス・ファーガソンが述べていたこの一文は非常に重い。
もっと言えば、ストーミングやカウンタープレス(ドイツ語で言うゲーゲンプレス)の端緒であるユルゲン・クロップはペップ時代のバルセロナを研究し「守備が凄い」ことに強さの要因があることを突き止めてチームを強化したわけ(過去のJ Sportsのインタビューなどを見るとよくわかる)で、起源はペップのバルサにあると言ってよい。なんなら、この本を読めばわかる。ドイツ流とか言われているがよくよく突き詰めたらバルサである。


バルセロナでのイノベーションはさすがに今回の主題と違うけれど、シティーに好感を持てるのは、バルセロナの良いエッセンスをちゃんと導入したこと。

広瀬一郎教授も傑作とこの本を評していたけれど、スポーツ経営学の本としてとても面白いし、こんなことしたら強くなるよね、って教えてくれる本である。
この中で、どうしてペップがバルサ監督就任に至ったのか(誰が落ちたのかも知る)、面白い話で、ここから始まったんだなぁと。
そんな著者のフェラン・ソリアーノがCEOをやっているのがマンチェスター・シティー。チキ・ベギリスタインSDが有名だけれど、こっちのスペイン人もチームの中で欠かせない存在。
(昔、三木谷浩史プレミアリーグの中継で映ったときに、日本語実況は「三木谷社長ですね」ってばかり言っていたが、英語実況は「CEOのフェラン・ソリアーノです」と説明していて、認識の違いって、出るものだなぁと思った記憶がある)
経営がしっかりしているので、ちゃんと選手もやってくる。だから強い。好循環の中で、唯一取り損ねているのが、UEFAチャンピオンズリーグのトロフィー。通称ビッグイヤー(大耳)。


昨季のオランピック・リヨネー(オリンピック・リヨン、以下「リヨン」)との対戦では、何故か奇を衒ったことをして敗戦。スターリングがゴールを決めていたら、ということも過るが、やっぱり何といっても、何で本筋通りの戦い方をしなかったの?という印象が強い。なんでそんなにリヨンを恐れたのか、リヨンとの戦力差を考えていなかったのか、リヨンのストロングポイントを何だと思っていたのか、とても不思議な負け方だった。
レアル・マドリードとの1stレグでガブリエル・ジェズスを左のウィングに起用する奇策は見事だったことは確かだが、奇策をする相手を間違えているようなお話。(同じシーズンのマンチェスター・ユナイテッド戦も奇策で失敗した象徴的な試合)
今回の決勝で、考えすぎて失敗する試合だけは、シティーおよびチェルシーのファンではない私としては見たくない。というのが要望。